連日白熱した競技から目が離せないリオ五輪。地球の裏側から応援しようと、夜更かしや早起きを続けている人も多いのではないでしょうか。
 8月9日時点で日本は3個の金メダルに加え、銅メダルが7個と、メダル合計獲得数が10個に達しました。
 一方、同時点で日本よりも多くのメダルを獲得しているのがアメリカです。金メダル5個、銀 メダル7個、銅メダル7個の計19個と、合計獲得数において2位以降を大きく引き離しています。そして特筆すべきは、そのうち7割を超える計14個のメダ ル(金4個、銀4個、銅6個)がすべて「競泳」種目の結果だということです。
 以前、このブログでマイケル・フェルプス選手について記載しました。
 マイケル選手は過去に行われたオリンピック全競技の中で、最高数のメダル数を獲得し、コーチングの大家のルータイス、そしてルータイスや苫米地英人博士と共にコーチングを普及したマークシューベルト(元米国オリンピックチーム監督)のコーチングを受け、コーチングの理論と実践を徹底して行ってきた結果、ここまで成長してきたトップアスリートです。
 ● なぜ、五輪という大舞台において、メダルに届くパフォーマンスを発揮することができるのでしょうか?
 ● 本番で安定した実力を出し切り、勝利を手にする人とそうでない人の違いはどこにあるのでしょうか?

 本日のブログでは、『東洋経済社』に興味深い記事(8月11付)が掲載されていましたので、少し長くなりますが、その記事の内容を皆さんに紹介しておきたいと思います。
 この記事では競泳アメリカ代表チームを率いるコーチであり、五輪通算19個の金メダルを獲得した「怪物」マイケル・フェルプスの恩師でもある名将ボブ・ボウマン氏が、著書『君もチャンピオンになれる』の中で明かした内容にその秘密を探っています。
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 マイケルはいまでは史上最強の五輪選手として有名ですが、最初に出場した2000年のシドニー五輪では、200mバタフライのみ出場し、5位に終わ りました。しかしこのとき、彼はメダルを狙って試合に臨んだわけではありません。「68年ぶりの五輪最年少の男子スイマー」だった15歳のマイケルにとっ て、競争相手はみな年齢も経験値も自分を上回る成人男性。勝てなくて当然です。

 マイケルと私はその試合から多くのことを学び、今後のために記録を残しました。ささいなことばかりですが、それをしないと後で悔やむことになるからです。

 たとえば彼は予選と準決勝で水着の紐を結ぶのを忘れました。なぜか? 端的にいえば、緊張したからです。幸いトラブルは何も起きませんでしたが、私たちは地元に戻ってから水着が脱げないようにするという単純なタスクを必ず練習しました。

 マイケルは後に、初めての五輪を前にして、「ちょっとビビっていた」ことを認めました。無理もありません。まだ歯列矯正器具をつけている少年で、身 長も伸びている最中だったのですから。しかし、このときの経験から学んだことは彼の記憶に残り、4年後のアテネで「ビビる」ことはありませんでした。

準備を整えていたからこそ、自信も備わり、本番ではまったくミスすることなく6個の金メダルを勝ち取ったのです。

 「本番――特にそれが最初のパフォーマンスの場合は、その経験からできるだけ多くのことを学ぶ姿勢で臨もう」。私は教え子たちにそう伝えています。 結果以外のことを考えるのは難しいかもしれませんが、それでも、ひとまずやってみることです。経験を積むたびに全体のレベルが上がり、将来のより大きな成 果の準備が整うのです。

 私のもとを訪れる選手の中には、それほど集中力に恵まれていないアスリートもいます。彼らが大きな試合で失敗する原因はたいてい集中力です。試合と試合の間で気が散ってしまい、集中力が途切れてしまうのです。

同じようなわなに落ちている人はたくさんいるのではないでしょうか。家族、友人、仕事、娯楽――さらに、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、人気のゲームアプリ。それらはすべて、目の前の目標に集中する妨げになります。

 私に長年協力してくれているスポーツ心理学者のジムは、パンアメリカン、世界水泳選手権、そしてもちろん、五輪といった大きな大会に同行します。レース前の精神集中がうまくいかない選手がいると、私から彼に知らせるのです。

 試合では、集中力を妨げるさまざまなものをすべて排除して本番に臨む態勢が整っていなければなりません。だからジムが選手と会って、試合に集中できるようにサポートするのです。

 そこではたいてい、こんなやりとりが繰り広げられます。

   ジム : 「君がレースですべきことは何だ?」

   選手 : 「メダルをとること、相手を負かすこと、賞金を勝ち取ることです」

   ジム : 「いや、違う。君がすべきことは、A地点(出発点)からB地点(ゴール)までできるだけ速く

       泳ぐこと。速く泳ぐことは、ライバルやメダルとは 関係ない。大事なのは、自分がすべきこと

       に集中することだ。速く泳ぐために必要なこと、つまり、レースプランとテクニックに集中する。

       それだけだ。メダル とか、おカネ、情熱、レーン、ほかのスイマー、ソーシャルメディア、マスコミ、

       そんなものは君の足をっ張る騒音でしかない。そんな無関係なものを気にし ていたら混乱する

       だけだ。単純に考えようよ」

 ジムは、レースの前に手か足の甲に文字を書くことを勧めています。言葉や記号でもかまいません。手の甲と足の甲はレースに臨む選手の視界に必ず入り ます。そこに「キュー(合図)」を描いておけば、それを見て、心を落ち着け、「単純な仕事」に集中すればいいことを思い出すのです。単純な仕事――それは つまり、出発点からゴールまで、できるだけ速く泳ぐことです。

 スタート直前、多くのアスリートが迷って自信を失いかねない瞬間、そのキューが目に入れば寸時に自分の仕事に集中することを思い出します。キューが「隣のレーンのスイマーやメダルのことなど忘れろ。ただ泳げ!」と呼び掛けるからです。

 この方法はスイマー以外でも使えるかとジムに尋ねたところ、彼は自信満々で「もちろん」と言いました。

「4人の子供をもつ専業主婦がいるとするね。父親は遅くまで働いているから、母親が4人全員の送り迎えをしなければならない。母親には1人でこなしきれないほどの用事がある。食料品店に行って、夕食の材料も買わなければならない。

 そんなとき、手の甲に“食料”と書いておけば、どんなに込み入った状況になっても、食料品店に寄ることを思い出す。混乱から1歩離れて、深呼吸して、店に向かえと伝えるからだ。そして、任務が完了する!

 たくさんの仕事をこなすと有能に見えるが、優先順位を決めて、仕事の数を管理できる範囲に留めないと、きりきり舞いして、しかも質が低下する。仕事 を細分化して、1つずつ片づけ、ほかのタスクを思い出させるキューを利用すれば、すべてのタスクを効率よく、質を落とさずに予定どおりに行うことができる よ」

 スポーツではよく「気負いすぎて失敗した」という言葉を聞きます。前に何千回も成功しているのに、勝敗がかかった場面でフリースローをはずしたバス ケットボールの選手。満塁サヨナラのチャンスがある打席で三振に終わった野球選手。彼らはほかの状況でなら別の結果を出したかもしれません。

では、「気負いすぎる」原因が何かといえば、本番という、通常以上のプレッシャーを感じる場に置かれたからです。

 気負いすぎとは、プレッシャーを感じて、身体ではなく精神面が最良の状態になれないことです。ふだんは上手にできる人でも、重圧がかかるとふだんど おりにできなくなる。状況に負けて、「自分がそこにいるのは勉強してきたことや練習してきたことを行うためだ」という単純な理由を見失ってしまうのです。 先を見て、結果に意識を向けてしまう。失敗したらどうしようと思ってしまう。

プレッシャーがかかる状況に直面したときは、自分自身と自分のプランだけを見つめましょう。“いま”に集中して、これまで何回も完璧をめざして練習してきたことをそのまま行うことです。それさえ守れば、望みの結果はついてきます。

 マイケルは試合で気負いすぎて失敗したことがありませんでした。では、つねに勝ったかといえば、そんなことはありません。しかし、それはその日、ライバルが彼よりもよい泳ぎをしたからです。

 彼が気負いすぎずにいられたのは、勝利を目標にしないで、タイムを目標にしたからです。「自分がコントロールできるもの」に焦点を合わせたからです。

 私が目標として与えたタイムがうまくいけば、もちろん金メダルにつながることもありますが、その場合でも、めざすのはあくまでもそのタイムを出す泳ぎです。

 マイケルは「負けるのが嫌い」だと言ってきました。しかし彼が本当に嫌うのは、目標を実現しそこねることです。誰かに負けるのと、自分に負けるのは違います。自分に負けることは許されない。大事なのは、ただそれだけのことなのです。

 この記事の内容はコーチングそのものです。ゴールを設定することの重要さをまさしく訴えている記事でもあります。 あなた自身も自分のゴールを設定し、未来へ進んで行こうではありませんか。

 今日も、最後までお読み頂きありがとうございました。